この刃の小さいカッターのような物は何に使うのですか?
ナスの接ぎ木に使うカッターです。接ぎ木をしていないナスは実のつきが悪かったり虫や病気に弱かったりするので、育ちやすく病気に強いトルバムビカーという台木専用のナスを接ぎ木に使います。落ち葉と少量の米ぬかを積み重ね発酵させて作った腐葉土にナスの種をまき、少し大きくなってからトルバムビガーにナスの茎をはめ込むようにして接ぎ木します。この時、カッターでトルバムビガーとナスの接ぐ部分を斜めに切って、ナスがしっかりはまるようにします。このカッターは父が作ったもので、少し補修はしましたが、今も変えずに使っています。
これは、作り途中の堆肥です。成蹊大学から、毎年落ち葉をトラックに積んで、もらってきます。
それをここに隙間なく積み上げて、発酵を促すために腐葉土づくりの時多く米ぬかをまきます。
農業では大量の水を使うので、貴重な水の使用量を少しでも減らすために、未使用の水道水の代わりに風呂水を、堆肥づくり用の落ち葉の上に、ホースを使ってまきます。落ち葉を発酵させてくれる微生物が落ち葉を分解するとき熱を発生させるので、気温が低い時でもこの落ち葉を少し掘ると暖かいんですよ。特に温度の高いときには、60℃くらいになります。
最近はこのような堆肥よりも使用量が少なくまきやすいペレット堆肥を使う農家さん も増えていますが、落ち葉などで堆肥を作れば、本来捨ててしまうはずの落ち葉を有効活用できるので、ここで使っている堆肥は全て自家製です。
落ち葉を少し掘って触ってみました。この時の気温は約10℃。少し肌寒いくらいの気温でしたが、積んである落ち葉の中は本当に暖かかったです。
ぼかし肥という、鶏糞(けいふん)・魚粉(ぎょふん)・油かす・土・米ぬかを混ぜて作る有機肥料です。鶏糞は、未発酵のものを使うと発酵するときに温度が上がりすぎてしまうので、途中まで発酵して白い菌がついているものを使い、米ぬかは米屋からもらいます。水をかけて堆肥舎に積んで数ヶ月間発酵させると、菌が出した熱で60℃くらいになり、スコップで混ぜると湯気が立つようになります。また、微生物たちは単独で活動するのではなく、「コロニー」という白く見える集団になっています。微生物はとても小さいので、単独より集団の方が効率よく栄養を分解できるのです。
ぼかし肥の材料を混ぜる作業を手伝わせていただきました。つい夢中になる作業ですね。
農業で有機物を土に全く入れないと、どうなりますか?
植物が道端に生えているのを見たことがあると思います。そのように植物にはどこでも育つような生命力がありますが、植物の成長には様々な元素が不可欠です。植物が健全に成長するには、窒素・リン酸・カリの他にも微量元素が必要で、その微量元素は発酵(微生物が分解)した落ち葉堆肥を使うことによって補給することができます。また、化学肥料は人工物なので、あまり多く土中に混ぜ込むと、環境に悪影響を及ぼす原因になってしまいます。外国でしか採掘できない、日本ではあまり生産されていない等の理由で輸入に頼っているものも多く、輸入がしにくくなった場合に肥料を入手できなくなってしまうこともあります。この農場で大切にしているのは「命で命を育てる」ということです。有機栽培とは、つまりそういうことです。
清水農園では、栽培や収穫の体験活動も盛んに行っているようですね。
清水農園では主に、お客さん自らに収穫をしてもらって、その後にお会計という形で野菜を販売しています。また、子どもたちに栽培や収穫などの多様な体験を通して自然や農業のことを知ってもらうことで、「畑で野菜も子どもも育てる」ことにつなげています。
「農薬を使う」という概念がないことです。共生が大事な有機栽培で、農薬や消毒薬によって生物を殺してしまっては、本末転倒ということになってしまいます。農薬や消毒は、近代農業の概念です。でも、あまり動物が作物を食べに来てしまうと困るので、特に食べられやすい作物には農薬散布の代わりに大きな網を張っています。これで特に鳥は入りにくくなるので、対策をしない場合よりも作物を食べられにくくなるんですよ。でも、網を張っていても哺乳類は入ってきますね。タヌキやアライグマ、ハクビシンなどの結構大きい動物は網の下をくぐり抜けて、ネズミは網をかじり破って入ってきて、作物を食べてしまうことがあります。
タヌキやハクビシンは見かけたことがありましたが、市内にもアライグマがいるんですね(驚)知りませんでした。
主に、練馬大根など地元の野菜を育てています。最近は大きさや形の揃いが良く、成長が早かったり虫や病気に強かったりする交配(改良)品種が多く育てられていて有名ですが、この農園ではそのような交配品種は少ししか育てていません。昔ながらの品種を、採種もしながら育てているので、ずっと前から自分で採種している練馬大根は、もう武蔵野大根って感じですね(笑)
「規格品の野菜を育ててください。」と頼まれたこともありましたが、有機栽培、特に、あまり改良されていない昔ながらの野菜の栽培では、形や大きさの揃った規格品を育てるのは難しいです。そのかわり、農薬などを使わずに有機物を使って育てているので、大きさや形は揃わなくてもとても美味しい野菜が育ちます。
野菜の質を決めるのは見た目だけではないですね。有機栽培で育った野菜も、規格品に決して負けないくらい美味しい野菜だと思います。
有機栽培の野菜は、スーパーマーケット等でも最近よく見かけますね。
有機栽培は地球環境の保護に繋がっているので、近年SDGsなどの大きな目標が立てられたこともあって、よく推奨されています。化学肥料や配合肥料には、窒素が多く含まれるものもありますね。窒素は植物の成長に欠かせないものですが、植物が吸収しきれない程与えすぎると、地球温暖化を進める原因になってしまいます。有機物も窒素を含みますが、もともと自然由来のものなので化学肥料ほど地球温暖化の原因にはなりにくいです。有機栽培は環境に配慮しているので、2050年には農業の30%を有機農業にしようという目標も立てられています。
有機栽培は、社会でも推奨されることの多い農業なのですね。
まず、手間がかかることですね。昔、産業革命が起こってから、多くの作業を一人や少人数で行うよりも、大人数で作業を分担する方法が盛んになっていきました。確かに、多くの作業を少人数で行うのは大変で、一人一人にかかる負担も大きいので、作業を大人数で分担した方が楽な事も多いです。有機栽培と非有機栽培も同じような感じで、有機栽培の方が大変なことも多いですね。しかし、手間がかかって大変な事の裏には、大きな達成感や喜び、発見があるので、それらによって生きる実感を得ることができます。確かに、近代の工業は、私たちに大きな恩恵をもたらしました。その恩恵の大きさは否定できるものではありませんが、その発展の過程で物の豊かさを第一として考え続けた結果、人々にとって大切な何かが時の彼方に忘れ去られてしまいました。その何かを取り戻す方法の一つが有機農法だと、私は確信しています。
産業革命以降の農業では、作物を「作る」という概念も多かったですが、有機栽培をしている私たちは生き物を「育てる」という概念で野菜を栽培しています。有機栽培は、より自然の力を大切にするので、必然的にそのような概念になりますね。農業は昔から人々の生活に直接関わってきました。農業をやっていたり農業体験をした人の間にはコミュニティが生まれ、農地が一つの村のようになります。私は、「有機栽培の農地をいかして人々の集いの場にできたらいいな。」と思っています。
最近、「不便益」という考え方を知りました。有機栽培にも、「不便益」があるのですね。
《農業者を目指す子どもたちに、メッセージをお願いします。》
農業だけで食べていく(生活していく)のは大変です。組合に加入する方法もありますが、特に私たちのような個人だとブランド化も難しく、作物を育てることよりも売ることが大変だったりします。
なので、自分なりのやり方(アイデア)を見出すのが大切。やり方というと、私たちの場合は、作物だけでなく人も育てることに繋がる体験活動ですね。自分なりのやり方を見出すためには、情報を集める、経験を積んで活かすなど、自分の努力が必要です。また、色々な人に知ってもらうための発信も大切ですよ。
私も将来、農業者になりたいと思っています。とても参考になりました。
清水さん、もとゐさん、ありがとうございました!!
インタビュアーからヒトコト
近年とても注目が高まっている有機栽培。有機栽培のことや清水農園の取り組みについて、今まで知らなかったことも、たくさん知ることができました。